本文からの引用 『名前』より(本文P30〜P32) |
変な小学生だった僕は、将来息子が出来たら「真志若(ましわか)」と名づけて、「父上!」、「若!」と呼び合おうと考えた。 3人目の子供のオチンチンを見とどけて、僕は「やった!」とほくそ笑んだが、親戚、家族、近所中の猛反対の前に長年の夢は消え去った。 「河島真志若」。上から読んでも、下から読んでも「かわしまましわか」・・・・・・いいと思うんだけどなあ・・・・・・。
上の娘が女房のお腹の中にいたころ、僕は寝袋かついでシルクロードを一人ほっつき歩いていた。果てしない砂漠の中で出会った「バンディ・アミ-ル」という名前の湖に感動して、お腹の子が女だったら「亜美瑠(あみる)」と名づけようと思った。いつか娘と二人で、その瑠璃色の湖が眠るアフガニスタンの地を訪ねるのが夢だった。
二女の名前は船名から取った。 ひょんなことからベトナム難民の人たちの援助をお手伝いすることができ、その援助活動に使われた船の名前「キャップ・アナムール号」から「亜奈睦(あなむ)」と名付けたのだ。
地方へ歌いに出かけると以前はよくポスターの名前が「川島」とか「英伍」、「英吾」になっていたりした。一字違うだけでも自分じゃないみたいだ。だから人様の名前もきちんと覚えなければと思う。そう、小学校時代の先生がいまだに僕らの名前を覚えていてくださるように。
さて「真志若」と呼ばれこそなかった我が息子。 北海道を旅する汽車の窓から、雪原を駆ける1頭の元気な子馬を見つめていて「翔馬」とひらめいた。僕がただそう決めただけなのに、今ではあたかも宇宙の始まりの日からそう運命づけられてでもいたかのように、その名前以外では振り向きもしない。
すべての星にも命にも名前がある。 人を愛する時、なぐさめ、はげます時、百万言を費やすよりも、あたたかく名前を呼んでやりたいと思う。 |
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目次(全77) | |
- 歳月
- 種子島の一徹者
- 拝啓 村田兆治様
- エジソンとこいのぼり
- 愛しのアフガン
- 初めてのギター
- 七〇年代について、今
- 名前
- 野風増 のふぞう
- 海亀のものがたり
- インジャンチカモクドッテンカイメイ
- 僕は放火魔だった!?
- 豊かさについて(三つのはなし)
- 川のはなし
- 月のはなし
- 時の旅人
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- 真夜中のジョギング
- 拝啓 ちばてつや様
- 鉄馬賛歌
- 酒のはなし
- こりすの物語
- コンプレックス
- 山のはなし
- はじめてのピアノ
- 英五流(上)
- 英五流(下)
- 河島一家、種子島へ行く(上)
- 河島一家、種子島へ行く(中)
- 河島一家、種子島へ行く(下)
- 『月』の花祭り
- 履歴書
- 手をふる父
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- 二匹のエスキモー犬
- 長嶋茂雄+美樹克彦=!?
- うひひと笑ったモスクワ娘
- 二代目・河島英五
- 手品師の思い出
- 十二月の風に吹かれて
- 正月の風景
- 村田兆治少年野球教室
- 御蔵(みくら)島紀行
- ごはんよ永遠なれ
- 妹の授業参観
- ジーンズをはく、父
- 片耳だけのイヤホンから
- 亀を呼ぶ
- 夕食後のジョギング
- 叫ぶ販売機
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- あっそうか。
- 吾輩は、安田豊彦である
- デリカシーの無い犬
- 英五の旅日記
- 拝啓 ラモス瑠偉様
- 極端な性格
- 気持ちいい?
- 「ぴあの」の現場から
- インディオたちのバザール
- 流れる雲
- 翼の生えた電話
- 今度は俺の番だ
- あの歌が売れたころ
- きき酒コンテスト
- カラチのともだち
- 拝啓 宇津井健様
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- サムライ
- おふくろのひとりごと
- 加藤くんのコントラバス
- 父の自慢
- おいなりさん
- クラス替え
- 楠(くすのき)
- 路地裏の洗濯物
- 笑うと、殺すぞ
- 冒険家
- カイバル峠
- 出会い
- あとがき
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